玄界灘の大型ヒラマサは、生態と行動様式の違いから二つの型で理解できる。 本稿は、両者の行動・警戒性・捕食構造の差を、操船・ガイド実務・水中観察にもとづき整理し、 それぞれに適したアプローチ(探す釣り/場を設計する釣り)を比較する。生物学的な正式分類ではなく、再現性を高めるための思考モデルである。
二つのヒラマサ:回遊型「カチ」と居付き型「イツキ」
玄界灘の大型ヒラマサには、明確に性質の異なる二つのタイプが存在すると考えている。
- カチ(回遊型):イワシ・サンマなど外洋性ベイトを追い、マグロ類と同様に大規模な群れで各海域を移動する個体群。
- イツキ(居付き型):玄界灘という特定海域に定着し、エビ・カニ類を含むローカルな餌資源を利用しながら、小規模な群れまたは単体で行動する個体群。
船上から両者を判別することは難しいが、スキューバダイビングによる水中観察では、振る舞いに差が出る。 カチマサは運動能力が高く活発で、周囲を警戒する様子が少ない。一方、イツキマサは悠然と泳ぎつつも、極めて警戒心が強い。
比較で一発理解:カチとイツキの「違い」
- 移動のスケール: カチ=広域回遊(群れ)/イツキ=局所回遊(小群れ〜単体)
- 捕食の前提: カチ=ベイト群が主役(鳥山・ナブラ)/イツキ=地形と潮が主役(襲いやすい場)
- 探し方: カチ=「群れを探す」/イツキ=「場を読む(設計する)」
- 潮の重み: カチ=潮がないと乗りにくい/イツキ=潮が弱くても捕食する局面がある
- ルアー動作の重み: カチ=相対的に低い(沸いたら勝負)/イツキ=極めて高い(違和感で見切る)
カチマサの行動様式とアプローチ
カチマサはベイト群を追って回遊するため、戦略は「群れを探す」ことが主軸となる。 バードレーダーによる鳥山の探索、ナブラやボイルの発生地点への迅速なアプローチが基本である。
潮がなければ捕食モードに入りにくいため、潮汐時間の重要度は高い。 一方、捕食対象が明確である分、プラグの種類やアクションの細部が結果に与える影響は比較的限定的である。 要約すれば、「船を走らせ、群れ(または回遊ルート)に当て、沸いたら投げて掛けて獲る」という釣りである。
イツキマサの行動様式とアプローチ
イツキマサは自らの「陣地」を回遊し、地形を利用して獲物を突然襲う。 好むのは、上昇潮流(アップカレント)が発生しやすい場所、水中の死角が多い地形、波場によって溶存酸素量が高まりやすいエリアである。 特徴的なのは、潮が弱い状況下でも捕食行動に入る局面がある点である。
したがって、イツキマサに対する釣りは、 「ヒラマサが襲いやすいポイントにプラグを通し、誘い出して掛ける」という性質を持つ。 これは単に魚の存在を探す釣りではなく、魚の行動原理を前提とした“場の設計”の釣りである。
当船のガイドが「イツキ」に特化する理由
当船は、玄界灘に棲息する大型のイツキマサを狙うことに特化したガイドを行っている。 大型個体は極めて警戒心が強く、船の存在を察知した時点で、経験上ほとんど喰ってこない。
実務としての基本手順(静けさの設計)
- 根から300m以上離れた地点でエンジンを停止する
- 水中探知系の電子機器をすべてオフにする
- 潮とプラグの向きを揃え、アップカレントの潮目へ向けて静かに船を流す
プラグが水中で動き出した瞬間から、ヒラマサはそれを見ている。 大型のイツキマサは即座には襲わず、十分に見定めたうえで、一撃で喰う。 したがって、プラグの動きが常に一定であり続けることが決定的に重要である。
途中でエビる、ラインが交錯するなどして動きが乱れた場合、経験上、その後に喰ってきた例は一度もない。
バイトが集中する「二つの瞬間」
オフショアでドテラ流しを行う状況では、プラグの初動が極めて重要となる。
- 第一のチャンス: キャスト後、プラグがリアから着水し、深く潜って不規則に浮上する瞬間(いわゆる「落ちパク」)
- 第二のチャンス: 入力後、潮に頭を向けて前進ダイブし、再び浮上する最初のアクション
この二つの局面だけで、全体のバイトの三割以上を占める。 以降、2回、3回、4回とアクションを重ねても反応がなければ、速やかに回収して次のキャストに移るのが合理的である。 9アクション以降にバイトが出る確率は、経験上、極めて低い。
ファイトにおける「利き目」と旋回方向
魚類には利き目が存在することが知られているが、玄界灘のイツキマサにおいては、 ほぼ左目が利き目であることを水中観察で確認している。 ヒラマサは左目で獲物を捉え、頭からプラグに食いつくため、 フッキング後は左顎にフックを抱えた状態でラインに引かれる構造になる。
その結果、魚は本能的に右へ引き返そうとし、旋回は時計回り(右旋回)になりやすい。 したがって、ロッドを通じてライン角度を観察し、 魚の頭がこちらを向いた瞬間にリフトし、向こうを向いたら力を緩める。 この動作を繰り返すことで、ヒラマサを過度に怒らせることなく、効率的に浮かせることが可能となる。
事実と解釈の区別について
本稿における「カチ」「イツキ」という二型分類、およびそれぞれの行動様式・警戒性・捕食構造に関する整理は、 玄界灘における長年の操船・ダイビング観察・ガイド実務の経験に基づくものである。 これは生物学的な正式分類ではなく、現場での再現性をもとに構造化した思考モデルである点を、あらかじめ明記しておく。
更新履歴
- 2026年1月:初稿公開